●アンジェス(株):2021/06/12 11:01
新型コロナウイルスワクチンの国内開発が新たな問題に直面しています。海外産のワクチン接種が広がり臨床試験の実施が難しくなっていることや緊急時の医薬品の承認制度の問題が障壁となっているからです。治験の方法や承認プロセスの見直しが迫られています。既に先発のワクチンが使用されているなかで薬事承認に向けた最終段階の大規模第3相試験において二重盲検試験のために数万人の被験者を確保することは難しく、多額の治験費用がかかることも開発を妨げているとの指摘があります。また、新型コロナウイルス感染症は死亡リスクもあり、すでに有効性の高いワクチンが存在するため、偽薬の投与に倫理的な問題がつきまといます。
また治験の方法だけでなく、承認プロセスの見直しの必要性も指摘されています。米国では緊急使用許可(EUA)という制度により米食品医薬品局(FDA)が緊急時にワクチンの生産や承認を早めることが可能となっています。すなわち、緊急時に限り、未承認でも新型コロナウイルス感染症の流行が収束するまでとの条件付きで一時的に認めるというものです。しかし、米国の緊急使用許可制度を日本で新設する場合は、法制化に時間を要するために、緊急対応策が必要となる現段階の政策選択としては難点があります。
こうしたことから、緊急対応策として、患者数が少なく治験が難しい希少疾患の医薬品などを念頭に制度化されている「条件付き早期承認」をワクチンに適用拡大する提案も出されています。すなわち、一定の安全性と有効性を確認した上でフェーズ3前に承認し、市販後の追跡調査で確認するというものです。
なお、ワクチンの承認に現行の「条件付き早期承認」制度を適応させるには、現在定めている4項目の適応事例に加えて、日本製薬団体連合会で提言しているように
「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な医薬品であること」
の内容で5項目を、省令改正などで追加出来れば、法律改正までの手続きは必要がなく、目下の課題に即応可能となるのです。
国は新型コロナウイルスワクチンを「国民の命を守る安全保障の要」と位置付け、国産ワクチンの開発・生産の支援を行っていく構えです。であれば、大規模治験のあり方や薬事承認手続きの簡略化を早急に進めるべきです。