●アンジェス(株):2021/04/06 05:13
国産ワクチン、なぜ出てこない?
塩野義製薬の手代木功社長に聞く(その2)
――ワクチンの開発で、日本は「戦時」への備えが十分ではなかったのですか。
【手代木社長】一言で評価するのは難しいのですが、ワクチンの開発については当初想定していなかった状況になりました。
ワクチンの種類で分けると、ファイザーと米モデルナのmRNAワクチン、英アストラゼネカと米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のウイルスベクターワクチン、米ノババックスの組み換えタンパク質ワクチンの3つが、圧倒的に開発が速かった。しかし、日本にはこれらの開発基盤がなくて、不活化ワクチンという伝統的な技術しかありませんでした。
さらに、ファイザーやアストラゼネカは従来ならどんなに早くても開発に3~5年かかるところを、8カ月ほどで製品化してきました。
そして、後発組にとって厳しい状況が生じます。ファイザーなどのワクチンが急ピッチで進んだことに加えて、現時点で分かる範囲のデータでは、高い有効性が確認されたことです。その結果、後発組が治験のフェーズ3(第3相)に必要なプラセボ(偽薬)との比較をする大規模試験を実施することが難しくなってきています。
――どういうことですか?
【手代木社長】何もワクチンがない時点なら、プラセボとワクチン候補の比較試験をするしかありません。しかし、有効性のあるワクチンができた後では、健康な人にプラセボを打つことは正当化しにくい。そのため、ファイザーなどがワクチンを提供し始めた後は、世界中の会社がプラセボとの比較をするフェーズ3を実施することが難しくなっています。
ただ、今先行しているワクチンがベストなワクチンなのかどうかは、まだ分かりません。そうした中で今後どうしていくのかに、今、世界中が迷っています。
フェーズ3を実施する代わりに、例えば、フェーズ1、2を経て一定の規模感でテスト投与をしてみて安全性を確認する。そして、ウイルスをなるべく無毒化する中和抗体とウイルスを排除しようとする細胞性免疫がきっちり機能していることを確認したうえで、接種後の副反応や、発症した人の状況を細かくデータを取ってモニタリングすることを条件に仮承認するといった対策が必要ではないでしょうか。