●アンジェス(株):2021/02/04 10:19
<伊藤内科:よもやま話>
高血圧症のワクチンとは?
【Q】先日ニュースで高血圧症のワクチンが実用化に向けて開発中であると聞きました。ワクチンで本当に血圧コントロールが出来るのでしょうか?
【A】血圧の調整メカニズムには様々なものが存在します。代表的なものの1つに、腎臓から分泌されるレニンという酵素、それにより活性化される血中のアンジオテンシンという血管を収縮させるホルモン、さらにそれによって活性化される体内の水分・塩分バランスに影響するアルドステロンというネットワークが知られています。このアンジオテンシンⅡを抑える薬で“アンジオテンシン受容体拮抗薬”は、優れた降圧薬のひとつとして現在世の中で非常に多くの患者さんに服用されています。
<斬新な発想から生まれた世界初の高血圧治療ワクチン>
近年大阪大学の森下教授の研究チームは、従来の薬物作用に拠る降圧剤ではない、非常に斬新な発想で世界初の高血圧治療のワクチンを開発しました。
<戦略はアンジオテンシンに対する
抗体を産生させること>
そもそも抗体とは細菌やウイルスといった異物が体内に侵入した際、それらを駆逐するために作られる対抗物質のことです。今回は血管を収縮させ血圧上昇作用のあるアンジオテンシンに対する抗体を産生させてその働きを抑制することで降圧を図るという戦略です。その際自分を攻撃する自己免疫異常が起こらないように設計する必要があったためDNAワクチンという遺伝子治療の一種を応用する方法が採用され、安全性と安定性が図られています。更に今回のワクチンはアンジオテンシンⅡおよびⅠに作用するため、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、ACE阻害薬、レニン阻害薬などの代表的な高血圧治療薬のメリットを併せた効果発現が同ワクチンに期待されています。
<1回の注射で効果は約1年間継続>
高血圧ワクチンの場合、1回の注射で約1年間効果が続くため、薬を毎日飲むわずらわしさを解消してくれるうえに、医療費も大幅に削減できることが期待できます。また多忙や認知症等の理由から服薬の順守(アドヒアランス)が不良となり高血圧症から最終的に心筋梗塞、脳卒中に罹患してしまう人々を予防できれば更に医療経済効果も期待できます。
(西大須:伊藤内科・血管内科)