●アンジェス(株):2022/06/26 07:11
◆脳に超音波ビーム、がんや認知症にも、「集束超音波治療」は
脳の治療に革命をもたらすか(その5)
<より簡単で、安く治療できるように>
「科学的にも医学的にも、これは画期的な成果です」とリプスマン氏は言う。とはいえ、この治療は多くの専門的な機材と訓練を受けたスタッフを必要とするものであり、すべての病院でできるわけではない。
資金、利用できるMRI、技術協力者の不足に業を煮やしたコノファゴウ氏は、血液脳関門を開く集束超音波の誘導(ガイド)においてMRに依存しない、携帯型のニューロナビゲーションシステムを開発した。専用のMR機器がなくとも治療が行えるよう、既存のMRI画像を使ってターゲットを見つけ、携帯型の装置から超音波を使って脳関門を開くという、よりシンプルな方法を編み出したのだ。
MRガイド下集束超音波治療およびマイクロバブル使用のパイオニアであるトロント大学の医学物理学者クラーボ・ヒニネン氏もまた、MRのガイドがなくても使える、より高性能でカスタマイズ可能な次世代集束超音波ヘルメットを開発している。
再利用可能なこのヘルメットによって、一連の治療をすべて含めても500ドル(約6万7500円)程度まで費用が減ると氏は考えている。技術がさらに進歩すれば、いずれは患者が自宅でくつろぎながら治療を受けられるようになるかもしれない。「長期的にはそこを目指しています」と、ヒニネン氏は言う。氏は、カナダ政府がこの装置を認可するまでには5年程度しかかからないと予想している。
<チャンスがあれば何度でも>
2022年2月、マイケル・バトラーさんは予後1年を迎えた。2021年に診断を受けた際に予想された余命の最短ラインだ。最長ラインは18カ月であり、8月にはその時を迎える。バトラーさんは現在、1分1秒を大切に過ごしている。2021年10月に最後の集束超音波治療を受けた後、彼は15回目の結婚記念日に、妻と一緒にカナディアン・ロッキーの列車の旅に出かけた。最近では、子どもや孫を連れてディズニーワールドにも行った。臨床試験にバトラーさんが協力するのは、子どもや孫ともっと多くの時間を過ごすためだという。バトラーさんは、今後も集束超音波治療の臨床試験に参加していきたいと語る。
「わたしが実験台になります。チャンスがあれば、何度だってやりますよ」