●アンジェス(株):2022/06/26 07:13
◆脳に超音波ビーム、がんや認知症にも、「集束超音波治療」は
脳の治療に革命をもたらすか(その4)
<アルツハイマーだけでも需要は膨大>
それでも、集束超音波治療の一日も早い承認を待ち望んでいる専門家や患者は多い。たとえばアルツハイマー病だけでも影響は甚大だ。
アルツハイマー型認知症は、世界中で5700万人が罹患しており、その数は2050年までに3倍になると予想されている。これまでに何百種類というアルツハイマー病の治療薬が膨大なコストをかけて臨床試験にかけられ、失敗に終わってきた。一部の研究者は、薬が脳にちゃんと届かないせいだと考えている。集束超音波治療の明らかな利点として、脳内に直接薬を投与できるため、より少ない投与でも効果が期待できる可能性はある。(参考記事:「アルツハイマー新薬、米当局の承認に異論噴出」)
トロントのバトラーさんの場合、医師らは、腫瘍の残りとその周囲にだけ正確に薬剤を届け、付近の組織には干渉しないよう治療を計画した。
バトラーさんは軽い鎮静剤を投与され、頭は動かないように軽量のフレームに固定された。MRIのベッドに横たわったバトラーさんの頭には、ヘルメットのような機器が取り付けられ、これが1000本以上の超音波ビームを、極めて正確に脳の奥深くまで送り込む。
神経外科医のニーア・リプスマン氏のほか、MRI技術者、医学物理学者、麻酔科医が、バトラーさんの処置にあたる。処置を始める前、隣のコントロールルームにいるリプスマン氏は、バトラーさんの脳の高解像度3Dマップを作成し、血液脳関門のどこを開いて薬剤を届けるかをピンポイントでガイドした。
バトラーさんが化学療法の錠剤を飲み、薬の血中濃度がピークに達したころ、技術者が静脈にマイクロバブル(超微小な気泡)を注入した。この気泡は赤血球より小さく、体に害を与えることなく体内をめぐる。
それからの90秒間、リプスマン氏は、集束超音波ヘルメットを操作し、バトラーさんの脳内にあるたまご大の部位に、正確にエネルギーを照射した。超音波がマイクロバブルを急速に膨張・収縮させると、固く閉まった血液脳関門が緩んで通り道を作り、そこから薬が流れ込んで、腫瘍とその周囲に直接届く。